予兆もなく突然、不安や動悸に襲われることは、誰にでも起こりうる心と体の反応です。
一時的なストレスから精神的な疾患まで、背景にはさまざまな要因があり、適切な理解と対処が必要になります。
この記事では、急な不安感の原因として考えられる4つの要素と、今すぐ実践できる5つのセルフケア、必要に応じた医療機関での治療方法についてわかりやすく解説します。
不安の原因を知り、適切な対処法を探したい方は、ぜひ参考にしてください。
急に不安感に襲われるときに考えられる4つの原因
急な不安感には、さまざまな要因が関係しています。
ここでは、よく見られる4つの代表的な原因について簡潔に解説します。
1:ストレスや疲労の蓄積
急な不安感の原因として最も多いのが、精神的・身体的なストレスや疲労の蓄積です。
仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、慢性的な睡眠不足などが続くと、心と体は気づかないうちに限界に近づいています。
ストレスを感じると、脳は「コルチゾール」というホルモンを分泌して対処しようとします。
しかし、この状態が長く続くと、感情をコントロールする機能が乱れやすくなり、不安感が突然あふれるように出てくるのです。
また、セロトニンというリラックス作用のある脳内物質は、疲労によって不足しやすくなります。
その結果、普段なら気にならないことにも過剰に反応しやすくなります。
2:自律神経の乱れ
急に不安感に襲われる原因のひとつとしてよく見られるのが、自律神経の乱れです。
自律神経は、心拍や呼吸、体温調整など、私たちが意識しなくても24時間働き続けている「体内の自動調整システム」です。
この自律神経は、「交感神経(活動モード)」と「副交感神経(リラックスモード)」の2つから成り立ち、バランスをとりながら体を調整しています。
ところが、不規則な生活や慢性的なストレス・睡眠不足が続くと、交感神経が過剰に働きすぎてしまい、「心拍数が上がる」「息苦しい」「めまいがする」といった体の反応が起こりやすくなります。
これらの身体症状が突然現れることで、「何か重大な病気では?」という強い不安感を感じてしまうのです。
3:ホルモンバランスの変化
ホルモンの急激な変動も、急な不安感の原因の一つです。
特に女性の場合、ホルモンバランスが乱れやすいライフステージで、心の不調を感じやすくなります。
たとえば、次のようなものが挙げられます。
・月経前症候群(PMS):生理前のイライラや不安
・産後(マタニティブルー):出産後の情緒不安定
・更年期:気分の浮き沈みや不安感などの自律神経症状
これらはいずれも、女性ホルモンの分泌量が大きく変化する時期に起こりやすく、脳内の神経伝達物質に影響して不安や焦燥感を引き起こすことがあります。
なお、男性でも加齢に伴うホルモン低下により、気分の落ち込みや不安を感じる場合があります。
(参照:月経前症候群|日本産科婦人科学会、女性がいきいき生きるコツ|日本医師会)
4:不安障害の可能性
強い不安や恐怖を繰り返し感じる場合は、不安障害と呼ばれる心の病気の可能性があります。
なかでも代表的なのが「パニック障害」です。パニック障害では、突然の激しい動悸・息苦しさ・めまいといったパニック発作が特徴です。
「また発作が起きたらどうしよう」といった予期不安に苦しむことも少なくありません。
このほかにも、次のようなものがあります。
これらは性格のせいではなく、脳の働きや神経伝達物質のバランスによって起こる病気であり、適切な治療によって改善が可能です。
放置すると、うつ病の併発や社会的な孤立につながることもあるため、早めに心療内科・精神科の受診を検討しましょう。
急に不安感に襲われたときのセルフケア5つ
突然の不安感に襲われたときは、まず「今できること」に目を向けてみましょう。
ここでは、自宅や職場などですぐに実践できる5つのセルフケア方法をご紹介します。
1:ゆっくり深呼吸をする
不安を感じると、呼吸が浅く速くなり、体が緊張状態に陥ります。
このとき、意識的にゆっくりとした呼吸(腹式呼吸)を行うことで、リラックスを司る副交感神経が働きやすくなり、心身が落ち着いていきます。
【簡単な腹式呼吸のやり方】
① お腹に手を当て、4秒かけて鼻から息を吸う
② 7秒ほど息を止める
③ 8秒かけて口からゆっくり吐き出す
これを数回繰り返すだけで、体の緊張がほぐれ、不安感がやわらぐ感覚を得られるはずです。
2:静かな場所に移動する
不安を強める要因のひとつが、「過剰な外部刺激」です。
騒音、人混み、強い光などの刺激が多い場所にいると、脳は休む暇なく働き続け、パニック状態に陥りやすくなります。
不安を感じたら、次のような「刺激の少ない空間」に身を移してみましょう。
・電車の中なら次の駅で降りてホームのベンチへ
・職場ならトイレの個室で一息
・カフェなどの静かな店内や公園のベンチ
「ここなら大丈夫」と感じられる安全な場所に移動するだけでも、不安は大きく和らぎます。
3:五感に意識を向ける
強い不安感に襲われると、「この先どうなるのか」という未来への恐れや、過去の後悔に意識が集中しがちです。
そんなときは、「今ここ」の感覚に意識を戻す「グラウンディング」を試してみましょう。
具体的には、五感を使って次のようなことを行います。
・視覚:机の木目や照明の光をじっと見る
・聴覚:空調の音や外の環境音に耳を澄ます
・触覚:手にしているスマホの冷たさ・硬さを感じる
このように五感を通じて「現実」に意識を引き戻すことで、思考の暴走をストップさせ、安心感を取り戻すことができます。
4:適度な運動を取り入れる
体がこわばり、気分が落ち着かないときは、軽い運動も効果的です。
激しい運動は不要で、「近所を5分ほど散歩する」「深呼吸しながら伸びや肩回しをする」といった気軽な動きでも十分効果があります。
ウォーキングなどのリズミカルな運動はセロトニンの分泌を促し、心を落ち着かせてくれる効果があるものです。
体を動かすことで、頭の中の不安から意識を切り替えるきっかけにもなります。
5:カフェイン・アルコールの摂取を控える
不安を感じやすいときは、飲み物の選び方にも注意が必要です。
特にカフェインやアルコールは、不安感を強める要因になることがあります。
コーヒーやエナジードリンクなどに含まれるカフェインは、交感神経を刺激し、心拍数や緊張感を高めるため、不安が強まることがあります。
またアルコールも、飲んだ直後はリラックスできても、分解の過程で眠りを浅くし、翌朝に不安感を残すことがあるため注意しましょう。
不安を和らげたいときは、カモミールティーなどのハーブティーや体を温める白湯・ノンカフェインのお茶など、刺激の少ない温かい飲み物を選ぶのがおすすめです。
セルフケアで改善しないときは精神科・心療内科での治療も検討しよう
セルフケアを続けても急な不安感が改善しない、または不安のせいで仕事や外出が難しくなるほど日常生活に支障が出ている場合には、精神科・心療内科の専門医に相談することをおすすめします。
医療機関では、主に以下の2つの方法で治療が行われます。
治療法 | 概要 | 期待できる効果 |
---|---|---|
認知行動療法(CBT) | 不安を生み出す思考のパターンに気づき、考え方を柔軟にしていく心理療法 | 不安への捉え方が変わり、症状が軽くなる |
薬物療法 | 抗不安薬やSSRIを服用し、不安感や過緊張を緩和する | 気持ちに余裕が生まれ、治療に取り組みやすくなる |
どちらの治療も、患者さんの症状や希望に合わせて選ばれます。
心の不調は気合いで乗り越えるものではなく、治療で改善できるものです。
つらさを感じたら、早めに専門家に相談してみてください。
急に不安感に襲われることに関するQ&A
急に不安感に襲われることの多い方のよくある疑問に答えました。
当てはまる内容がある方は参考にしてください。
Q1:夜になると急に不安感に襲われるのはなぜですか?
日中は仕事や人とのやり取りで気が紛れていても、夜は静かになり、頭の中に不安や心配ごとが浮かびやすくなります。
さらに、日光によって分泌される「セロトニン」は夜になると自然に減少するため、気分が不安定になりやすくなるのです。
Q2:不安で涙が止まらなくなるのはなぜですか?
感情が高ぶったときに流れる涙には、ストレスホルモンを体外に排出する働きがあると言われています。
つまり、涙は心のバランスを保つための「デトックス」のような役割を果たしているのです。
涙が出るのを我慢する必要はなく、安心できる場所で気持ちを解放することも立派なセルフケアです。
Q3:急に不安感に襲われるのは、うつ病のサインなのでしょうか?
うつ病は気分の落ち込みだけでなく、「以前楽しめたことに興味を持てない」「理由のない焦燥感が続く」といった症状も含まれます。
不安障害とうつ病は併発することも多く、自分で区別するのは難しいため、「気分の低下が2週間以上続いている」「何もする気が起きない」などの状態があれば、早めに専門医に相談することが大切です。
まとめ
・急な不安感は、ストレス・自律神経・ホルモン・不安障害など複数の要因で起こりうる
・深呼吸や静かな場所への移動など、すぐにできるセルフケアが効果的
・カフェイン・アルコールなど、刺激の強い習慣は見直すことが大切
・不安感が続く場合は、認知行動療法や薬物療法など専門的な治療で改善が期待できる
・夜の不安や涙なども自然な反応であり、一人で抱え込まず早めの相談が安心につながる
不安は誰にでも起こりうるごく自然な反応であり、「おかしいこと」ではありません。
実際、ストレスや自律神経の乱れ、ホルモンバランスなど、明確な原因が関係していることが多くあります。
まずは深呼吸や生活習慣の見直しといったセルフケアから取り組むことが大切です。
それでも不安感が続く場合は、医療機関での治療によって改善が見込めるケースも多くあります。
正しい知識と適切な対処で、少しずつ安心できる日常を取り戻していきましょう。