認知行動療法とダイエットの関係
はじめに
世の中は、さまざまなダイエット法で溢れています。ダイエットは簡単でなく、結局何度もダイエットを決意している方もいらっしゃるのではないでしょうか。なぜダイエットは続かないのでしょうか。
それは皆さんの脳が、甘いものを欲したり、痩せないように現状維持にはたらいたりしているためです。今回は、この脳が司る「思考」や「感情」をコントロールして痩せる方法「認知行動療法」についてご紹介します。
1. 認知行動療法とは
皆さんが今行なっていることは、頭の中で「〜しよう」、「〜しなければいけない」、「〜したいな」と思ったり、考えたりしたことが行動にあらわれた結果です。例えば、今、ご飯を食べているのは「お腹が減ったから」という人もいれば、「目の前にいる友達に食事を誘われたから」という方もいるでしょう。
しかし、ご飯を食べるという行為には変わりがなく、皆さんが考えたことを行動に移し、このような行動の積み重ねが人生を形成しています。人生は、皆さんの選択の結果なのです。
認知行動療法は、この行動にうつす前の「〜しよう」、「〜しなければいけない」、「〜したいな」という思考や感情にアプローチする心理療法です*1。これまで、うつ病やパニック障害など精神疾患の心理療法として用いられ、近年では、肥満、糖尿病などの生活習慣病の予防・治療においても、使用されています。
認知行動療法は、患者さんのセルフコントロールを目的の一つとしており、患者さんの生活状態に応じて、多様な方法を提供することができます。そのため、肥満に悩む欧米諸国では精神疾患だけでなく、ダイエットにも広く用いられています。最近では日本でも認知行動療法についての知見が広まりつつあります。
2. 肥満治療における認知行動療法
肥満の治療については、1960年代に初めて行動療法(行動の介入を対象とする心理療法)が開始されて以来、食事療法や運動療法と併用することで、減量効果を報告してきました*2。
しかし、減量後の体重の再増加(リバウンド)の問題が多いことから、その原因は、人々の思考や感情にあると考えられるようになり、これが認知行動療法と命名されるようになりました*3。
確かに、「食べた結果太ってしまった」という行動の原因は、「ストレスによる過食」であったり、「褒められて嬉しかったからお菓子が食べたくなった」というようなものであったり、原因は人によってさまざまです。
このような、ただ「食べて太った」という行為であっても、その背景にある皆さんの思考や感情、すなわち認知にアプローチするようになりました。
これまで多くの行動療法が肥満治療に適用されてきましたが、減量及び治療終了後の効果は1年までで、その後放置すると3〜5年で、また元に戻ってしまう患者さんが多く見られました*4。
行動療法は、短期間の減量には有効であっても、長期間の体重維持には極めて困難を要するものでした*5。したがって、現在の肥満治療の最大の課題として、減量後の体重をいかに維持するかということに着目されています。
3. ダイエットにおける認知の歪み
ダイエットが続かない方、高度肥満患者の多くは、過食と運動不足、自己流ダイエットによる一時的な減量とリバウンドの繰り返しによる蓄積された過剰脂肪状態が原因であると報告されています*6。
そのため、成功例が少なく減量に関しての自己効力感が落ちてしまっている場合が多く、患者さんに十分なアドバイスや情報提供をしても、減量行動そのものに懐疑的な認識をもっている状態が多くみられます。
報告されている認知の歪みの多くは、過剰にエネルギーを摂取しているという自覚がなく、「食べていないのになぜか太る、私は太る体質なのかもしれない」「水を飲んでいるから水太りなのかもしれない」など、認知の歪みを示していることがわかっています。
適切な食事や運動療法によって、体重や血糖値は必ず改善していくのですが、患者さんはゆっくり進む身体の変化を待てず、すぐにダイエット効果が出ることを期待してしまい、その効果を実感する前に、軽いリバウンドや停滞期を起こしてしまうのです*7。
肥満患者さんの認知の歪みの多いパターンとして、中間がない、「全か無か」の思考パターンや脱制限(掟破り)があります。「完全に減量できないから、初めからやらない方がいいや〜」という完璧主義や、「今日チョコレートを食べてしまったから、今日は終わりだ、もう一日全部チートデイにしよう」という脱制限による罪悪感の増加から、いつも以上に食べてしまうなどが挙げられます。
また、「〜すべき、〜してはいけない」といった教条的思考はリバウンドを高めます*8。
4. 具体的な肥満治療方法
そこで用いられるのが、個人の健康意識へのステージ分類と、そのステージモデルに合った個人指導です。これは、各ステージによる個人の健康へのモチベーションを確認し、そのレベルに合わせた的確な情報を与えることによって、行動変容を確実にもたらします。
実際に、肥満外来などでは臨床心理士による認知行動療法を施行し、同時にカウンセリングも行う病院もあります*9。
実際のカウンセリングでは、初回に面接として受診動機(減量動機)、受診経緯、過去のダイエット経験、社会的因子(生活習慣、生活環境、家族関係、職場環境)などの確認を行い、心理的因子としてのストレス値の評価、対人関係、性格特性などのカウンセリングが行われます。
例えば、高度な肥満により、お医者さんからダイエットの指示が出ている場合なのか(痩せないと命に関わる状態など)、もしくは、基本的に痩せているけど、美容体重になりたいのか、など人それぞれ痩せたい理由はさまざまであるため、本当にそのダイエットは必要なのか、目標体重になったらどうしたいのかなど、目的を明確にします。
ダイエットの継続には、患者さんが、自己効力感を向上させていくことが重要となるため、最初が肝心です。
また、事前のメディカルチェックとしての糖尿病、高血圧、脂質異常症などを確認します。
肥満治療としての食事療法や、運動療法のための栄養士による問診、健康運動指導士による運動負荷試験、運動処方、運動療法も併用して行われます*10。これらの情報は、お医者さんだけでなく、栄養士や運動指導士、看護師に情報を共有し、共通カルテや症例検討会で提供されます。
各スタッフは、あらかじめどのような対応が最も患者の行動変容に有効であるか理解して対応することができるため、適切な個人指導が可能となります。情報が見られるのが嫌という方は、スタッフの方にご相談されることをおすすめします。
実際にカウンセリングでは、認知の歪みを修正するために、思い込みを取ります。例えば、「私は痩せにくい体質である」「甘いものを食べないとうまく仕事ができない」など、根拠のない思い込みを取り除きます。その後、自分の行動パターンを認識します。
これはセルフモニタリングといって、認知行動療法の重要要素になります。セルフモニタリングとは、認知行動療法の基本的なスキルで、患者さんが自分の行動を検証することに役立ちます*11。
肥満治療では、毎日の食事内容、運動、体重の記録を行うことで、これまで意識していなかった自分の行動の視覚化を目指しています。食事記録では、野菜を緑、お菓子をピンクのマーカーで印をつけるなど、視覚的に栄養バランスを確認できるようにします。
また、じっとしている時間や、デスクワークをしている時間、テレビを見ている時間なども細かに記録します。これにより、いつ自分が間食をしやすくなるのか、集中力が切れるのかなどが視覚化することができます。カウンセリングでも、セルフモニタリングによる自己効力感の育成、ネガティブな感情を助長する「認知のくせ」の修正を一つの目標にしています。
次に、目標にむけて小さなことから始めていきます。例えば、「いつもは電車だけど、1駅歩く」、「タクシーには乗らない」、「いつもエレベーターのところを階段にしてみる」などです。
従来の行動療法では、減量を達成するという目標と、現状維持という目標を区別することがありませんでした。そのため、減量のスピードが減り、目標としていた体重に達成することができず、また減量によってもたらされる本来の目的(体系を変えたい、自尊心を高めたいなど)も得ることができなかったため、自信をなくし、減量のみならず、そこまで頑張った減量効果を維持することも諦めてしまうというリバウンド問題が生じます。
また、リバウンドの原因は自己効力感の喪失が大きな原因であることが報告されています*12。自己効力感を失わないために、小さな成果がでたら、その都度自分のことを褒めてあげましょう。
さらに、このようなストレスへの対処法として、ストレスマネジメントがあります。自立訓練やリラクゼーション技法などを使い、患者さんに合うストレス対処法を知ることで、安定したダイエットの継続を促します。
同時に、カウンセリングでは、医療従事者と患者さんとの関係を重視しており、対等な治療関係、受容的な関係性の構築、患者の主体性を引き出すカウンセリングを行うようにしています。個人の目標に関しては、栄養士、運動指導士が患者さんにアドバイスした個々の目標から患者さん自身が選択できるように再認識させ、主体性のある目標設定を行えるようにしています。
さらに減量プログラムの初期は、患者も過度な期待を抱き、より多くの目標や困難な目標を選びがちあるため、できるだけ簡単に実現可能な目標をアドバイスすることも重要であることがわかっています*13。
さいごに
認知行動療法におけるダイエットは、医療期間で専門のカウンセラーと協力して行うこともできますし、単独で行うこともできる簡単な心理療法です。
ファイヤークリニックでも下記のように認知行動療法に基づく、医師監修ダイエット食事指導を行っております。詳しく聞いてみたい方は、是非一度お気軽にカウンセリングにお越しください。
ファイヤークリニック
参考文献
*1K.S. Dobson, D.J.A. Dozois Historical and philosophical bases of the cognitive-behavioral therapies K.S. Dobson (Ed.) Handbook of Cognitive-Behavioral Therapies, Guilford Press New York (2001) pp. 3-39
*2Wilson GT et al., Behavior therapy for obesity: An evaluation of treatment outcome Advances in Behaviour Research and Therapy3(1980):49-86
*3 I Kirsch et al, Hypnosis as an adjunct to cognitive-behavioral psychotherapy: a meta-analysis, Consult Clin Psycho 1995 Apr;63(2):214-20.
*4Z. Cooper, C.G. Fairburn A new cognitive behavioral approach to the treatment of obesity Behav Res Ther, 39 (2001), pp. 499-511
*5Z. Cooper, C.G. Fairburn, D.M. Hawker Cognitive-Behavioral Treatment of Obesity: A Clinician’s Guide, Guilford Press, New York, NY (2003)
*6M.G. Perri The maintenance of treatment effects in the long-term management of obesity Clin Psychol Sci Pract, 5 (1998), pp. 526-543
*7R.R. Wing Behavioral weight control T.A. Wadden, A.J. Stunkard (Eds.), Handbook of Obesity Treatment, Guilford Press, NY New York (2002), pp. 301-316
*8J.A. Linde, R.W. Jeffery, E.A. Finch, M.D. Ng,A. J. Rothman Are unrealistic weight loss goals associated with outcomes for overweight women? Obes Res, 12 (2004), pp. 569-576
*9Diabetes Prevention Program (DPP) Research Group The Diabetes Prevention Program (DPP): Description of lifestyle intervention Diabetes Care, 25 (2002), pp. 2165-2171
*10Diabetes Prevention Program Research Group Reduction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or metformin N Engl J Med, 346 (2002), pp. 393-403
*11J.A. Tooze, A.F. Subar, E.T. Frances, R. Troiano, A. Schatzkin, V. Kipnis Psychosocial predictors of energy underreporting in a large doubly labeled water study Am J Clin Nutr,74 (1994), pp. 795-804
*12T.A. Wadden, L.G. Womble, D.B. Sarwer, R.I. Berkowitz, V.L. Clark, G.D. Foster
Great expectations: “I’m losing 25% of my weight no matter what you say. ”J Consult Clin Psychol, 71 (2003), pp. 1084-1087
*13R.W. Jeffery, R.R. Wing, R.R. Mayer Are smaller weight losses or more achievable weight loss goals better in the long term for obese patients? J Consult Clin Psychol, 66 (1998), pp. 641-645
PROFILE
-
2017年 佐賀大学医学部 卒業
2017年 都立松沢病院 勤務
2019年 都立多摩総合医療センター 勤務
2020年 FIRE CLINIC新宿院 開院
2021年 渋谷院、銀座院開院
2023年 新宿、渋谷、銀座、名古屋の4院に展開しFIRE CLINIC総院長を務める。
2024年 公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター 再生医療研究室 特任研究員
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